さぁ、もうすぐ2025年のJリーグが開幕します。
今年はファジアーノ岡山が初めてJ1リーグに挑戦します。
これまでずっとJ2で戦い続け、やっとつかんだチャンス!
プレシーズンマッチでは鹿島アントラーズを破るなど、毎年どこが優勝するのかわからないJリーグでどれだけ暴れてくれるのか、本当に楽しみです。
「JFE晴れの国スタジアム」での開幕戦では、京都サンガF.C.を対戦相手に迎えます。
この2つのチームの共通点と言えば、そう、
どちらも野生のアユモドキの生息地ということ!
両クラブのホームグラウンドのある岡山県と京都府亀岡市は、野生のアユモドキに残された最後の生息地なのです。
そう、この試合は、
\ アユモドキダービー /
なのです!
※ 「勝手に言って盛り上がりたいだけ」でございまして、イベントなどを行うわけではございません。
さぁ、この機会に便乗して勝手に盛り上がっていきましょう!ということで、
アユモドキと2か所の生息地について、アユモドキに関わっている方に電話でお話をうかがいました!
今回お話を伺うのは、環境省中国四国地方環境事務所野生生物課長の澤志さんです。
中国四国地方の希少な野生生物の保護や、外来生物の防除などの業務に携われています。
(左の画像と右の画像は、同じ御仁です。)
まずはアユモドキの基本的なことを教えてください。
アユモドキは、かつて琵琶湖淀川水系(滋賀県、京都府、大阪府)と山陽地方の岡山県から広島県福山市に分布した淡水魚です。広い意味でのドジョウのなかまですが、現在野生のアユモドキの生息が確認されるのは、京都府亀岡市の桂川(保津川)水系、岡山県旭川水系と吉井川水系に限られます。
1977年に文化財保護法による天然記念物に、また2004年には種の保存法により国内希少野生動植物種に指定されている日本の希少淡水魚です。
アユモドキってどんな魚ですか?
日本のドジョウのなかまでは唯一、尾びれが二叉しています。3対の口ひげがあります。若い個体やオスの体側には7~11の横しま(縦しまと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、魚の場合、頭を上にして、しまの縦横をみます)がありますが、成熟したメスでは不明瞭になります。
ふだんは河川や農業用水路にすみ、石垣のすきまや河床の石のすきまなどに隠れ、その間をス~ッと泳いでいたりします。岸辺からその動きを見ると何ともかわいらしいです。
水田に水を入れるために堰を上げると、堰の上流部の水かさが増しますが、その時にそれまで陸地であった陸生植物の生い茂った場所(一時的な水域)に移動して産卵します。産卵後ふ化までは24時間ぐらいととても短く、ふ化後は、泳げるようになるまで植物などに細い糸のようなものでぶら下がります。泳げるようになると流れのある水路などに移動します。
アユに似ているのですか?
実は、私自身学生時代にアユの研究をして来ましたが、「体型は何となくアユに似ています」というと他の専門家の方々には「どこが似てんねん!」とあきれられるかもしれません。
しかし、アユにあるあぶらびれこそありませんが、胸びれ、腹びれ、しりびれ、背びれ、尾びれの位置がアユとアユモドキでは同じような場所にありますし(サケマス類、みな同じような位置にあるやろと反論もあるでしょうが)、アユモドキの成熟したメスの肌の質感や色は、まぁ似ているといえば似ているかもしれません。
アユとアユモドキは、口もとが全然ちがいます。石の表面の付着藻類を突進してこそげ取るアユの上あごと下あごは付け根の部分で二つに分かれていますし、歯にも特徴があります。一方、アユモドキは3対の口ひげが目立ち、おちょぼ口のイメージです。
和名に「モドキ」と付くのがかわいそうな、魅力的な淡水魚です。
アユモドキのどんなところに魅力を感じていますか?
とても愛嬌のある顔をしていますし、隠れ場所となる石垣から隠れ場所となる石の陰への動きもシャイでユーモラスです。水槽展示されている個体がなかなか石の下から出てきてくれなくて「陰キャラ」な魚と呼ぶ人もいますが、私は奥ゆかしさを感じます。
アユモドキは、どのような環境に暮らしていますか?
先ほど述べたように、ふだん見かけるのは特定の農業用水路や小河川で、石垣や石と石の間や陰を好みます。ここで「特定」のというのは、アユモドキが次世代へ繋がっていくには、河川~農業用水路~一時的水域がうまい具合に連結されている必要があるからです。
アユモドキはむかしは洪水時のみ水にひたる氾濫原を利用して繁殖する魚だったと考えられます。現在は水田耕作の周期にあわせた堰の立ち上げにより水に浸ることになる、堰の上流側に出現する一時的水域が繁殖場所としてとても重要です。また、農耕地から出てくる栄養分がプランクトンやイトミミズ、水生昆虫を増やし、アユモドキはそれらをエサとします。そのため、岡山と亀岡のいずれの地域も耕作地が縮小して来ることでアユモドキの繁殖場所を生み出すことにもなる堰の可動をしなくなったり、農薬の使い具合が変わってきてエサとなる小さな生きものが減少したり、田園環境そのものが無くなって来るとアユモドキは生きづらくなります。
どうして今は岡山県と亀岡市にしか生息地がないのですか?
岡山県と亀岡市の生息地の周辺は田園地帯となっています。そこでの農作業とアユモドキの生活史の周期がうまく合致したのだと思います。
一方、生息地周辺での開発問題はじめ諸処の課題が発生した時に、両地域とも民間団体が頑張ってアユモドキの保全のための活動を継続されて来たことは、とても大きいことだと思います。
岡山ホームスタジアム「JFE晴れの国スタジアム」
岡山県では、アユモドキのためにどのような取り組みを行っていますか?
市民、民間企業や行政が協力して、アユモドキの保護・保全活動が行われています。
生息地近くの小学校において専門家の指導の下、アユモドキの人工繁殖に取り組まれています。そこで繁殖したアユモドキの一部はキリンビール岡山工場のビオトープで野外繁殖試験を行うなど、民間企業とも連携されています。生息地の公民館やその他施設でアユモドキが水槽展示されていますし、公民館による観察会が開催されるなど地域活動も行われています。
河川管理者による新たな繁殖場所の整備、保全団体による自然繁殖場所の維持・整備、生息環境の変化の歯無くや密漁防止のためのパトロール、生息状況の確認などが行われています。
岡山ではアユモドキの他、スイゲンゼニタナゴという国内希少野生動植物種に指定されているタナゴも生息しています。そのため中国四国地方環境事務所では行政機関間の連絡調整会議を開催して、河川や水路の工事においてアユモドキやスイゲンゼニタナゴの生息に十分な配慮がなされるよう調整しています。また、密漁防止活動の強化、大学や研究者との連携を進め、生息状況調査や環境DNAによる繁殖地の特定等を行っています。
取り組みの中で、特に頑張っている点を教えてください。
岡山では、半世紀以上にわたり活動している保護団体さんの存在は凄いことだと思います。また、アユモドキの生息地近隣の小学校では、人工繁殖を含め授業においてアユモドキが取り上げられていることから、子どもたちがアユモドキに親しみを持っています。
カワウ、サギ立ち入り禁止の看板。「ここは てんねんきねんぶつ・アユモドキの せいそくちです。 たいへん もうしわけ ありませんが、おしょくじは べつの ところで おたのしみ くださいますよう、おねがいします。 おかやまし」
取り組みの中で楽しいこと、取り組んでいてよかったなー!と感じられる時などを教えてください。
岡山では通学路のすぐ横の水路にアユモドキがいるのを感じられるのは実にうらやましいです。活動中に関心を持った子どもたちが近寄って来ることもあって、それもうれしいですね。
これまで12年間で強烈な記憶に残っていることとして、近畿地方環境事務所在籍中にあった亀岡での外来魚の緊急防除が上げられます。
当時、アユモドキ生息河川の上流にある溜め池には誰かが密放流した特定外来生物オオクチバスやブルーギルがいたのですが、その流出防止用の網(トラップ)を設置することでアユモドキ生息場所への侵入を防いでいました。しかし、ある年の台風襲来でその網が破損し、これら外来魚が溜め池から河川への出口に設置した流出防止用の網を乗り越え、大量にアユモドキ生息河川に流れ込んで来ました。保全団体や専門家の先生から、実はそれ以前にも同様の事例があり、その際にはその年生まれのアユモドキが食べ尽くされてしまったので何とかしてほしいと要望がありました。
そこで、事務所では急ピッチで様々な手続きをして、防除の業務発注をしながら、それでも体勢が足りないかもしれないと職員も動員、保全団体も一緒になり緊急捕獲を行いました。その際、私も投網等を用いて5日程度だったか外来魚の捕獲を行いました。捕獲に行く度に外来魚の捕獲数は減少するのですが、捕獲した外来魚の体サイズは回を追うごとに大きくなっており、そのままにしていたらアユモドキをはじめ多くの在来種が食い尽くされてしまうと感じ、毎回数十回は投網を打ちました。
そして、みなで作業した結果、多くの外来魚を駆除することができ、翌年以降もアユモドキの姿を確認し続けることができたのはとても感慨深く思いました。
京都ホームスタジアム「サンガスタジアムby KYOCERA」
亀岡市に訪問なさったそうですが、亀岡市のアユモドキの生息地はどんなところでしたか?
岡山の2つの地域と亀岡のいずれの生息地も周辺の風景は異なりますが、田園環境が残っていること、農業用堰の操作で水路の水位が人為的に変動するところは共通しています。
どちらも元々は水田を中心とした農耕が行われていますが、岡山の1地域では酒造好適米の雄町米で有名な雄町に近く、一方亀岡では近年京野菜の生産地として有名ですよね。
アユモドキの生息地は田園風景が残り、訪れるとほっとするところですね。
亀岡市のアユモドキのための取り組みで、「頑張っているな!」「すごいな!」と思った点を教えてください。
降雨状況により水害を防ぐために堰を操作されるのですが、一挙に上流側の水かさが下がると一時的水域内にいたその年生まれのアユモドキが水涸れによって死滅する事故が発生する可能性があります。亀岡では保護団体や役場職員が見回りをし、堰の管理者と連絡、そのような事故が起こらないように、うまく連携が取られている印象があります。
かつて亀岡へのスタジアム設置に関しては、アユモドキ生息地の保全とスタジアムの設置が両立できるのかと色々な議論があって、そういう中でスタジアム設置場所が変更されることとなり、スタジアム利用による環境の変化や地下水の状況に至るまで丁寧な調査がなされ、アユモドキ保全のための普及啓発も推進されることとなりました。その一端としてアユモドキが2017年『亀岡市の魚』として選定され、現在では環境保全のシンボルとなっています。サンガスタジアムby KYOCERAにはアユモドキ展示水槽も設置され、サポーターの方もアユモドキを見ることができますし、スタジアム周囲には『アユモドキーパーくん』のカラーマンホールがありますので必見です。
亀岡市は世界に誇れる環境先進都市を目指されており、スタジアムに隣接してCircular Kameoka Labという市の取組を発信する施設も2024年8月にオープンされました。そこでは地域発アップサイクル品の紹介や「プラスチックごみゼロ宣言」に関する解説の他、アユモドキの飼育水槽展示、「あゆまもカードゲーム」というアユモドキや亀岡の自然環境、生活との関わりについて考えることができるカードゲームなども置かれていました。環境保全といった時に、自然環境と人の生活する場の環境とを分けて考えがちなのですが、それらは分かつものではなく一体として捉えていく必要があり、亀岡市の取組について大きく期待しています。
あゆまもカードゲーム
今回のJリーグ開幕戦で京都サンガF.C.とファジアーノ岡山が対戦することとなって、まさに「アユモドキダービー」だけど亀岡市の最近の取組がどうなっているのかなと思い、久しぶりに亀岡を訪れました。岡山駅から2時間もかからずに亀岡駅に到着、両チームのサポーターが移動するのも時間的距離はそう長くないと思いました。
地域に根ざしたお互いのチームをリスペクトすることから、ビジター応援の際に観光旅行を兼ねつつ、応援を通じて地域間の自然環境保全や文化交流が発展して行くことに繋がれば、うれしいですね。
ありがとうございました!
Jリーグは、同じチームと1年間に2回、ホームとアウェイで対戦します。
次回の「アユモドキダービー」はサンガスタジアムby KYOCERAにて8月30日(土)開催予定です。
頑張れファジアーノ!
頑張れサンガ!
頑張れアユモドキ!
読んでいただき、ありがとうございました。