こんにちは、地域環境計画・北海道支社の松岡です。
当社・北海道支社の動植物調査では、ヒグマから身を守るため、護衛をお願いしているハンターさんがいらっしゃいます。
北海道の三笠市で活動する、高崎さんです。
今回はヒグマに関する経験や護衛について、「アオバトについての25の質問」のように、色々と伺ってみようと思います!
ヒグマに会ったことはありますか?
偶然に出会ったのは、旅行や釣りに行く途中に3回、山菜を取っているときに1回ですね。
狩猟や駆除では、捕獲した場面も含めると、16回ヒグマに出会っています。
ヒグマに会った時に、においはしましたか?
経験上、ヒグマとの遭遇は一瞬の出来事なので、そのときににおいを感じるということは少ないです。ただ、「ここにヒグマが居たんだな」と、においでヒグマの存在を感じることはあります。
ハンターの中でも、臭いはある派・臭いはない派に別れることが多いですが、僕は断然「臭いはある派」です。
今年の春も、山の中に自動撮影カメラを仕掛けて、ヒグマをオンラインで撮影していましたが、後日その場所に行くと強烈なヒグマ臭を感じるということがありました。ヒグマを解体していても独特なヒグマ臭を感じますし、生物として代謝を行っている以上、週1回シャンプーでもしない限り無臭というのは考えられないと思っています。
鳴き声は聞いたことありますか?どんな鳴き声でしたか?
いわゆる「鳴き声」というのはまだ聞いたことがないか、そもそもそれがヒグマの鳴き声だと気付いていないのかもしれません。
牛のような声で「ブォォ!」と叫ぶ声や、声というよりは大きな溜息に近い「ブフゥー…」という声は聞いたことがあります。
ヒグマはパッと見てオスかメスかはわかりますか?経験でわかるようになるものですか?
(松岡)雌雄同色の特定の鳥類を観察し続けていると、人間を見て性別を判断するかのように、なんとなく雌雄判別ができるようになってくるんですよね。ヒグマはどうなんでしょう。
親子や大きなオスグマはパッと見て判断できますが、100㎏以下のヒグマはわかりにくいです。
経験上、ヒグマは実際よりも大きく見えてしまうことが多いので、あまり見た目で判断しないようにしています。
北海道三笠市にいるヒグマが4~11月に食べそうな食べ物ランキング1位を教えてください。感覚でかまいません。
- 4月:前のシーズンに落ちたクルミ
- 5月:フキ
- 6月:オオハナウド
- 7月:サクラ類
- 8月:アリ類
- 9月:ヤマブドウ
- 10月:コクワ
- 11月:シカ
ヒグマの個体数が増えていると感じますか?
(松岡)20年前はヒグマの多い地域、少ない地域ってあったと思うのですが、今は全道的にヒグマと遭遇する確率(痕跡を見ることも含む)が高くなっています。感覚的な話で良いのでご自身の見解や先輩ハンターの見解などを教えてください。
個体数は増えていると思います。70代や80代のベテランからクマが増えたという話を聞くことも多いですし、双子、三つ子が珍しくなくなったのではないかと思います。
ヒグマは冬眠しますが、厳冬期の温暖化は、若い個体や子熊の生存率に関係するものでしょうか?
(松岡)20年以上、道内各地の森の中を仕事で歩いていますが、ヒグマやエゾシカのみならず、タヌキやアライグマなども増えている印象を持っています。もしかしたら、厳冬期に雨が降ったり、厳冬期に暖かい日が続いたり、厳冬期が短くなったりしていることで、若くて弱い個体が死ななくなっているのではないかと思ったりします。
関係すると思います。僕の勝手な予想ですが、本来であれば、冬の厳しさを乗り越えられず死んでしまうような個体が、暖冬の影響で春先まで耐え忍ぶことができる。その結果、自然死する個体が減ってヒグマの個体数が増加しているという背景もあるんじゃないのかなと思っています。
ヒグマのケツの穴はやっぱり大きいのでしょうか?
(松岡)よくタヌキの溜め糞がヒグマの糞と誤認されることがあり、その際に識別ポイントについて説明することが良くあるので、自分の場合は糞の太さに注目してくださいと伝えています。要はケツの穴の大きさが違うと冗談交じりで伝えているのですが、いかがでしょう。
まず、タヌキの糞とヒグマの糞を見分けるうえで重要なのは「糞の香り」と、僕も同じく「糞の太さ」だと思っています。
まず、ヒグマの糞は基本的に不快感の少ない香りです。シカを食べたヒグマは例外ですが。対して、タヌキの糞というのは“強烈”な不快臭があります。正直嗅いでいられません。
そして、ヒグマのケツの穴についてですが、たしかにデカイです。僕はヒグマのホルモンが好きで、ヒグマのお尻には他の人よりもたくさんアクセスしていると思いますが、やはり穴の大きさがタヌキよりも大きく、そこから捻りだされる糞は太く迫力があります。
なので、もし怪しい糞を見かけた場合は「香り」と「太さ」、そしてタヌキの特徴であるため糞ではないかとか、糞の内容物とか、総合的に判断することをおすすめします。
有刺鉄線についた獣の毛をよく見ます。ヒグマであることを見極めるための重要なポイントがあれば教えてください。
ヒグマの毛は、パーマをかけたようなちりちりした毛で、色は黒々としていたり黄金色に光っていたりヒグマの体色によって様々です。シカの毛は芯が中空になっているので、つまんで曲げるとパキッと折れることで判別できます。
シカのツノ研ぎ痕と、ヒグマの爪痕ってどのように違いますか?
木を剥いだ“ささくれ”が上についているか下についているかがポイントですかね。シカは下から上に角をこすり上げますが、ヒグマは上から下に引っかいたり、木に登る時や背中をこするときに横に引っかいたりします。あとは、ヒグマの爪痕は線が平行線に付くことが多いですが、鹿の角研ぎ痕は線が交差したりします。
「土饅頭」って見たことありますか?
ハッキリと土饅頭と認識できるものを見たのはこれまでに3回です。過去にヒグマの足跡を追って藪漕ぎをしていて、「ついに藪が開けた!」と思ったら足元に土饅頭があったこともあります。土饅頭を見たときの緊張感は、なんとも形容しがたいですね。体の中で太鼓が叩かれているように、心臓の鼓動が大きくなります。
他に、これを見たら「近くにヒグマがいるぞ!」「これ以上進まない方がいいぞ!」っていう痕跡や気配を感じることはありますか?
藪が「ガサガサ!」ではなく「パキパキ…」と鳴るときは、要注意かと思います。
経験上、クマはゆらゆら動くと言いますか、シカみたいにわかりやすく逃げたり音を立てたりすることは少ないです。ゆっくり体を藪に隠しながら、そっと逃げるか、その場をやり過ごすことが多いように思います。
もちろん、脱兎の如く駆け抜けていくクマも居ますが、乗車中ではなく、歩いていてクマに出会った場合は、クマは取り乱さずゆらゆら逃げていきます。
では、ヒグマに襲われたことはありますか?
今のところありません。目の前3mまで走って接近してきたことはありました。
人を襲うヒグマってどんなクマですか?
個人的な意見ですが、クマが人を襲う場合は「防御」「欲求」「好奇心」の3つのパターンに別れるのかなと思います。
「防御」は、
出会い頭であったり、子供を連れていたり、自分もしくは子を守るために行動した結果、人に危害を与えてしまったというパターンです。
「欲求」は、
人の持っているモノや臭いに魅力を感じた、もしくは人自体に食料としての魅力を感じ、欲求がその他の感情を上回って行動に移ってしまうパターン。
「好奇心」は、
欲求に近いと思いますが、あの二足歩行の生き物は何なのか、あの動物が背中に背負っている袋には何があるのか、どんな反応をするのか、クマの「知りたい」という欲が、その他の感情を上回って行動に移ってしまうパターンかなと思います。
ヒグマは背中を向けて走ると追いかけてくるって本当ですか?
背中を向けて走ったことが無いのでわかりませんが、走って追いかけてくると思います。うちの犬も背中を向けて走る人間には追いつきたくなるみたいなので。
クマ撃退スプレーって効き目があると思いますか?
はい、あると思います。何回かクマスプレーを浴びたことがありますが、目も開けられず、鼻も利かなくなってくしゃみが止まらなくなります。いくらヒグマと言えど嗅覚と視覚が封じられてしまっては思うように動けないと思います。
ただ、実際にクマに向けてスプレーを発射したときは、「プシュー!」という音に驚いて逃げてしまいました。
手ぶら状態でヒグマに出くわしたら怖くないですか?
怖いですね。ヒグマと不意に遭遇したら、僕らハンターですら冷静でいられるか分かりません。ほんと、頭真っ白になっちゃいますからね。
重要なのは「出会ったら何をすればいいか」ではなく出会った時に“やっちゃいけないこと”を常日頃から意識しておくことかと思います。
護衛って、どんなことをするのですか?
調査員に同行して、調査員の安全を確保するというのが仕事です。
出没した際に撃つということがメインではなく、あくまで遭遇しないように音を鳴らしたり、万が一に備えて心と装備の準備をすることがメインです。
当社・北海道支社の動植物調査でも護衛を依頼していますが、調査員と一緒に歩いているときって、「調査員よりも先にエゾシカやヒグマを見つけてやる」って気持ちになりませんか?
(松岡はなります^^)
ハンターとは違った意味で、山のプロもしくは動植物のプロである方々なので、対抗意識はないです笑。
ただ、そんなプロたちより先に「あそこにヒグマが居ますよ」って教えられたら、かっこいいですね。
護衛中にヒグマが出現した時の「撃つ・撃たない」の判断基準って何ですか?
「人間に執着しているか」これが基準になると思います。
ヒグマに対して引き金を引くことは、腕に関わらず高いリスクを伴う行為なので、安全を最優先する護衛の現場では基本的に撃つという選択肢は取らないかと思います。
いつも弾は何発持ち歩いているのですか?
大体6発程度は持ち歩きます。
自分が心理的に安心できる弾数を持ち歩くのが良いと思います。
銃の管理で気を使っていることはなんですか?
銃はあくまで「道具」なので、気を遣いすぎないようにしています。銃は壊れても治せますが、体は壊れても簡単には直せません。銃を守るために身体や安全を犠牲にしたら本末転倒かなと思っています。
もちろん、銃口管理や法令遵守というのは大前提です。
撃ち損じてヒグマを手負いにしてしまった場合、どうしますか?
護衛業務中の出来事であれば、自分一人で判断できることではないかと思いますが、基本的には「引き金を引いた本人が最後まで責任を持つ」という考えです。
ヒグマの駆除に当たって、もちろんそういったリスクを背負うことは常に意識しているので、ソフトの面では、ヒグマの行動や習性を頭に入れておく、対処方法を様々な人から学んでおくということが重要になると思いますし、ハードの面ではサーマルスコープを持ち歩いたり、近接した場合に自信の命が守れるように、刃物類やスプレー類をしっかりと準備しておくということが重要になると思います。
クマ撃ちの世界にも伝説のハンター的なレジェンドっていらっしゃるのですか?
名ハンターっていうのは例外を除いて、なかなか表舞台には出にくいのかなと思います。
例外として、久保利治さんや赤石正男さんが、レジェンド的な存在になるのかなと思います。お二方ともお会いしたことはありませんが、叶うなら一度お会いしてみたいと思っています。
アイヌやマタギの文化・作法・精神のいずれかをご自身の狩猟スタンスに取り入れていますか?
アイヌやマタギを意識したことはあまりないですが、命を奪う一人のハンターとして、「痛みを少なく」というのは常々意識しています。
エゾシカもヒグマも、頭や首といった、中枢神経系を狙って仕留めることを意識していますし、食べ物を咀嚼したままの状態で仕留めたときは、最後は美味しい思いをしながら逝ったかなと、少し安心したりします。
ヒグマに関しては、ヒグマが憎らしいとか、嫌いだとか、そういった感情から猟をやっているわけではありません。
ヒグマは山の象徴で、知能が高く、愛くるしく、畏敬の念を抱いています。ただ、一方で獲物としても食材としても非常に魅力的で、電波もない山の中で、1人でヒグマと向き合う経験というのは、何物にも代えがたい魅力があります。
最後に、ヒグマの美味しいと感じる部位を教えてください。
ホルモンや背ロース、バラといった部位も魅力的ですが、なんといってもタンに適う部位はありませんね。
牛や豚、鹿とはまた違う、ヒグマならではの旨味と言いますか、甘みといいますか、とにかく絶品です。
今後とも当社調査員の護衛をよろしくお願いいたします。
ありがとうございました!